文学ではマネをしたら「盗作」だけど、科学はマネをし合って発展する

今、わたしたちにとって宇宙が膨張しているというのは常識です。

しかし、アインシュタインの時代には、宇宙の大きさは一定で、宇宙が大きくなったり、小さくなったりはしない「定常宇宙」という考え方が一般的でした。アインシュタイン自身、定常宇宙を支持していました。

しかし、ルメートルというベルギー人の科学者は、宇宙は膨張しているという理論を構築し、さらに、自身の理論を検証し、実際にそれが正しいと証明しました。

宇宙が膨張しているということを調べるためには、ふたつの星の距離と、その星が互いに遠ざかるスピードを観測する必要があります。

アメリカ人の天文学者にヴェスト・スライファーという人がいますが、彼は遠くの銀河から来る光のスペクトルを測定し、その観測結果をだれでも使えるように公表していました。

そこで、ルメートルはスライファーのデータを用いて、「宇宙が膨張している」ということを証明したのです1

これがサイエンスの非常に美しいところだと思います。先人の知恵やデータを参照して、新たな発見を行います。

情報を公開し合ったり、論文やデータを引用し合ったり、そういうことが科学を発展させます。むしろ、それをしないと、正当だと認められません。

一方、文学や美術では、マネをしたり、似たような作品があったら、基本的には「パクリ」「盗作」といったレッテルが貼られます。著作権なるものが必要でもあります。

しかし、サイエンスでは、科学者全員が広義では同じ目的を持って、同じ方向を見ています。合理的な真理の追究という大きな目的ですね。

サイエンスという大きな「巨魁」にすべての科学者が貢献し、日々、知識やデータが構築されて、サイエンスはさらに膨張していきます。

まあ、そのため、論文のパブリッシュ争いが起きたり、データの盗み合いが起きたり、ロザリンド・フランクリンのような科学者が生まれたりもしますが。

一方、わたしは前職でメディカル・ライターをしていたのですが、医学はサイエンスとは似ても似つかないものだと感じました。医学に関わる人は全員が同じ目的を持っていません。患者の病気を治すため、キャリアのため、お金儲けのため等々。

医学においては真理の追究は二の次なんですよね。医学は科学的手法を用いますが、科学ではないです。農家が農学を利用して農業をしているのと同じような感じだと思います。農家は農学者ではないように、医者は科学者ではない場合が多いですね。

もちろん、兼任している人やより科学に傾いている医者もいます。山中教授とかもその類ではないのでしょうか。医師免許を取った後で基礎医学の研究者に転向しています。

たしかに基礎医学でしたら状況は異なりますし、科学者でも栄誉やお金を得るために研究している人もいなくはないので、やはり一概には言えませんが、STEMは、science、technology、engineering、mathematicsなので、ここにmedicineは入っていません。医学は応用の側面が強いと思います。

Lina (ライター)
早稲田大学卒業後、新卒でフリーランスライターとして活動開始し、現在はロンドン在住。ブログやYouTubeでも情報発信中。鹿児島出身、趣味はテニス。
  1. 科学者はなぜ神を信じるのか コペルニクスからホーキングまで (ブルーバックス) 新書 – 2018/6/20

コメント

  1. なるほど、科学は前研究をベースに新理論を構築する訳ですね。確かに御指摘の通りですね。対して文学はより、創造性や独創性が求められますね。りなさん、ご明察です。りなさんのブログは、頭の整理になりますね。興味深いブログ、ありがとうございました。引き続き、ブログ拝見いたします。ごきげんよう。