日本史を英語で読むと唸ってしまう

わたしは英語での日常会話には困らないのですが、少し込み入った話をするとなると、難しいなあと思ってしまいます。

最近、英語で「相対性理論と量子力学の矛盾と統合」「シュレーディンガーの猫」「天皇と将軍の本質の相違」「記紀の潤色」といった内容を説明したかったのですが、これができない。

科学用語や日本史用語の英単語を知らないので、話すことができないんですよね。これが非常にフラストレーションになっています。

幕府は英語ではshogunateです。「ショーグネット」って発音します。ショーグンが治めた時代・政治システムのことをshogunateと定義しているようです。

でも、日本人の感覚からすると、「shogunate = 幕府」と思えない使い方もあります。日本語で「鎌倉幕府が守護・地頭を設置しました」という文脈だと、「幕府」は幕府の首脳陣のことを指す気がします。政治システムが守護を置いた、というとなんか変な感じ。「鎌倉幕府の近くには鶴岡八幡宮がある」だったら、幕府が置かれた場所のことを示しています。

なぜ英語では単純に幕府を「bakufu」と呼んでしまわないのだろうと疑問に思います。でも、古墳は「kofun」です。なぜだ。PyramidとかMount Graveとかじゃだめなのか。

まあ、英語を話すときは英語の慣習に従うべきだと思ったので、英語でも日本史を論じることができるようになるため、英語で書かれた日本史の通史の本を読み始めました。

しかし、これがまた非常にconfusing、クエスチョンマークでいっぱいです。

まず、通史の本なのに、日本人がフォーカスする歴史事項とかなり違いすぎます。「それを説明するのに、そんなにページを割く?」って思うことが多い。

まず、歴史が記紀神話からはじまるんですよね。それから神代の天皇について論じています。わたしが日本史で一番詳しいのは古墳時代から飛鳥時代にかけてなのですが、神代の天皇について詳しく知ろうとしたことは一度もありませんでした。だって、彼らは伝説でしょ? イザナギの冥界下りとか、普通、歴史書で論じる???

甘樫丘での自撮り。2年前の冬です。背景には藤原京や天香具山があります。

ちなみに、日本書紀は英語ではNihongiと呼ばれることが多いです。なぜNihon-shokiと呼ばないのかがわからない。

今は平安時代のチャプターを読んでいますが、紫式部に関しては、Murasaki wrote The Tale of Genji.”とか書かれている。「紫は〇〇だ」「紫は清少納言を〇〇と言っている」という感じ。違和感しかありません。

一方、清少納言はSei Syōnagonと書かれている。Seiではない。すべてSei Syōnagonとフルネームで書かれていて、残りは代名詞・sheで逃れている。うーん。統一性がない。

聖徳太子はShotokuです。でも、日本人の学者は「太子」または「厩戸王」と呼ぶので、これも日本の慣習とは異なります。

あと、卑弥呼の名前の意味が「日の娘」だか「ひめみこ」だかなんだかと非常に詳しく論じられていたりもします。卑弥呼だけではなく、ほとんどの日本の歴史用語や地名について括弧書きで漢字の意味を添えているのは非常に面白い。長岡京が出てきたら”Long Hill”、という意味だとかわざわざ書かれていたり。長岡京の「長」と「岡」の意味とか考えたことなかったぞ。

漢字に意味があるからといって、日本人が毎回毎回漢字の意味を考えて日本語を消費しているわけではないのですが、日本語や中国語の母国話者ではない人からすると、文字に意味があることに意味を見いだしているようです。まあ、アルファベットよりは便利ではありますけどね、漢字は。

いくつかの用語はしっかりと英訳が定められているため、ちょっと面倒くさい。例えば、明治維新は「Meiji Restoration」という英語が完全に定着しています。なぜ、Restoration(王政復古)? Revolutionとかinnovationじゃだめなの?

明治維新はたしかに王政復古といえなくはないですが、薩摩や長州出身の政治家による維新政府が大きな権限を担っていたし、そもそも江戸幕府によって政治が行われていた時期も一応天皇は存在はしていました。そのため、天皇制が復古したかというとそうではないと思います。明治維新は、イギリス史におけるチャールズ1世を処刑した後のクロムウェルが共和制を樹立して、チャールズ2世が王政復古するrestorationとは性質が異なっています。

というわけで、日本史を英語で語るときは、慣習もなにもないカオスな状態なので、何も気にせずに言いたい放題言ってよいな、という結論に至りました。

多分、英語で日本史が語られるとき、その英語を母国語とする歴史家やライターが十分に日本語の史料を読み解く日本語力がなく、出来事の本質や日本語での歴史用語を理解していないから、カオスになっているのではないかという予想です。

日本でも文学とかで、「漱石は〜」「太宰は〜」と下の名前で読んだり、上の名前で呼んだり、統一性がないので、それと同じような感じなのだと思います。

まあ、世界史用語も日本語ではカオスだからおあいこですけどね。Bill of Rightsは「権利の章典」で良いのかとか(というか「章典」って何だ?)、Acts of Supremacyは「首長法」でよいのかとか。

あ、イギリス史に関するYouTubeビデオを作成中です。なので、最近イギリス史に詳しくなってます。

サイエンス界での共通言語は英語なので、科学用語はしっかりと英語での用語・表現を学びますが、歴史用語については我流でいこうと決意しました。我流というか、日本の歴史記述の方法に則ります。

Shogunateなんてわたしは使わないぞ。Bakufuで貫き通してやるぞお。

コメント

  1. 歴史動画楽しみです。外資企業に勤務した折、奈良や京都を本社のアメリカ人と出張し、その折、寺院の説明に苦労しました。例えば、東大寺の起源、大仏建立の方法、また出雲大社の起源等、色々ありました。りなさんの語学力で、まとまった日本史英語で作成下さいませ。ベストセラーになり、りなさんが一躍有名になれば、嬉しいです。いつも応援しております。ロンドン生活満喫くださいませ。

  2. ブログ再度拝見いたしました。りなさん、バクフでとおしてくださいませ。りなさんの英語日本史、出来上がり楽しみです。りなさん、提案ですが、幕末の薩英戦争を短編史記として、イギリスで出版し、足掛かりとされるのも一手だと思います。薩英戦争では、世界無敵の英国艦隊の艦長を戦死させ、イギリス側が艦船の錨を切り、撤退した不名誉な戦いです。日本の一地方政府の薩摩藩が善戦した戦いです。日本のその後日清日露戦争で善戦した伏線となりますね。知的なイギリス人なら、興味持つテーマだと思います。りなさんなら、名文で当時の描写、英語で出来ると思い、提案いたします。まずは短編で名前売ることから始めるのが、得策と思います。御一考下さいませ。りなさん、いつも応援しております。

  3. ブログ再度拝見しました。歴史ユーチューブ好評を博すこと、祈念します。新ユーチューブシリーズですね。知的なりなさんの本領発揮ですね!早く拝見出来ればいいのですが、思い通りに時間掛け、熟成下さいませ。ありがとうございました。ごきげんよう。