論文に書かれていることが正しいわけではない

人間は誰しも間違いを犯します。なので、間違い自体は仕方ないと思います。そして、間違いを指摘されたとき、潔くそれを認め、撤回できる人が、真に潔く正直な人。

わたしが科学(者)が好きなのは、科学が互いの誤りを検証し合い、再現性と論理性を尊重することで発展していく点に惹かれるからです。科学という「巨人」ないし「巨大建造物」を全世界が構築していくような感じ。

そして、それなりに権威のある雑誌に掲載された論文でも、有名大学の研究者によって発表された論文であっても、間違いは非常に多い。

Natureの記事に以下のような内容が。

2023年の研究論文撤回件数は1万件を超え、年間記録を大幅に更新した。これは、パブリッシャーが多数の偽論文や査読不正の処理に追われているためである。
The number of retractions issued for research articles in 2023 has passed 10,000 — smashing annual records — as publishers struggle to clean up a slew of sham papers and peer-review fraud.

https://www.nature.com/articles/d41586-023-03974-8#:~:text=The%20number%20of%20retractions%20issued,papers%20and%20peer%2Dreview%20fraud.

日本で論文の撤回といえば、もうSTAP細胞がインパクトがあった事件なのではないでしょうか。

この事件の一番の悲劇は、STAP細胞の論文の共著者・笹井芳樹教授の自殺だと思いますが、論文が間違っていることは「よくある」こと。

本当に不正を行おうとして不正を行ったのならば、ある程度、責められるのも仕方ないけれど、笹井芳樹教授はすでにSTAP細胞の論文を発表する頃には、すでに著名な研究者としての地位と名誉を完全に確立している方だったので、不正を行うアドバンテージはなかったのではないかと察します。

人はだれでも間違いを犯します。計算ミスだったり、先行研究の調査不足だったり、間違う理由はたくさんある。わたしなんて、単純な計算ミスなんて毎日していますし、電車をミスすることなんてたくさんある(missとmistakeは別の単語です)。

発表された論文はまだ「事実」ではありません。それらが他の研究者によって読まれ、事実であると認められて、はじめて「事実」と認定されます。論文発表段階では、ひとつの可能性に過ぎない。もちろん、著者自身は真実だと確信している場合が多いと思いますが、間違いや勘違い、実験結果の解釈ミス、データの収集方法の不完全さなど、論文の内容に誤りが含まれている可能性はいくらでもあります。

とくに、多くの研究者が注目するような分野であったら、1日、2日を争って、われ先に論文を発表しようとするため、計算結果や解析のミスが起こりやすくなる。

STAP細胞の論文に関しては、論文の発表という第一ステップにすぎない段階において、マスコミが騒ぎすぎたな、という印象。日本人の論文がNatureに掲載されても、普通はあれほどは注目されないのに、STAP細胞に関しては、大々的に取り上げられすぎた。

ベルツ賞、文部科学大臣表彰科学技術賞、井上学術賞など数々のアワードを受賞した笹井芳樹教授の自死の理由は彼にしかわかりませんが、日本のマスコミが「己の間違いを認め、論文を撤回するのが科学の常識」ということをしっかりと認知していて、それなりの対応・報道をしていたら防げたかもしれないと思われてしまいます。

イギリスでは、科学コミュニケーション(Science Communication)だったり、科学ジャーナリズムといった学問領域が確立されており、そういうことが学べる大学のコース(学部・研究科)が存在します。

しかし、日本ではジャーナリストやマスコミは「文系」に多い。だから、科学における「論文撤回」「前言撤回」の流儀を知らない場合が多い。論文や本に書いてあることが「正しい」という前提で話している印象があります。実際は、(特に科学においては)単純に可能性を示しただけにすぎない場合が多いのにです。

わたしがサイエンス系のライターになりたいと思ったのは、英語圏でのサイエンス系の報道や記事の質と比べて、日本語のそれらにギャップや稚拙さを感じたことがひとつの理由でした。高校では理系で、大学では文系で、社会人になってからはやや理系寄りのわたしだからこそ何かできる(tinyな)ことがあるかなと。

まあ単純に、科学が面白いなと思ったのが一番の理由でしたが。

コメント

  1. ブログ拝見。りなさんは難しい事色々分析為さりますね!論文はまず正しいものと認識しておりましたが、実に色々な内容があるのですね!新しい認識持ちました。りなさんのブログは新発見が多く、大変楽しみにしております。ありがとうございました。